第7章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない**
𓂃 side:伏黒恵 𓂃
扉が閉まったと同時に、の身体を扉へ押しつける。
「伏黒く――」
最後まで呼ばせず、唇を塞いだ。
さっきまで、本を渡したら、それで今日が終わると思ってた。
あとは「おやすみ」と言えば、は帰る。
それが嫌で。
もう少しここにいてほしくて。
部屋に入るかって聞くだけ聞いてみようか。
そんなことでさえ、また警戒されるんじゃないかって迷ってたのに。
今は、俺の部屋にいる。
こうして、俺がキスしてる。
『わからないなら、確かめてみるか』
……なんて。
もっともらしいことを言ったが、俺がもう一回キスしたいだけだった。
あの人とのキスを思い出して赤くなってる顔を、見てるのが嫌だったから。
何かを決める時も。
迷う時も。
こいつの中から最初に出てくるのは、いつも五条先生だった。
俺がどれだけ近くにいても、どれだけ手を伸ばしても、届かない場所にいるみたいだったのに。
それが――。
『あの日から……先生のこと考えてるはずなのに、気づいたら伏黒くんのことまで考えてるの』
その場所に俺がいた。
ほんの一部でも。
隙間みたいな場所でも、初めて届いた気がした。
唇を離しかけると、が俺のシャツを掴んだ。
咄嗟に掴んだだけかもしれない。
それでも、が俺を求めてくれてるんじゃないかって。
勘違いしたくなるだろ、普通。
唇の隙間から舌を入れると、一瞬戸惑ったあと、も触れ返してきた。
「……ん、ふ……っ」
その声も。
ぎこちなく返してくる動きも。
シャツを掴んだ手も。
今は全部、俺に向いている。
そう思ったら、ほんの一部じゃ足りなくなった。
もっと俺を考えてほしい。
もっと俺を見てほしい。
迷うなら、俺のことで迷ってほしい。
俺の言葉で戸惑って。
俺に触れられて、どうしていいかわからなくなって。
俺の名前だけを呼べばいい。
俺のことだけで、揺れてほしい。