第6章 調律の外れにて
イルミはニナの方へ数歩近づくと脇に立ち、力無く震える手を取った。下から差し込まれた手に、ニナの手首が掬われる。
そのままニナ自身の手を傾けられる。
長身の影が楽譜を覆った。
「ほとんど進んでないね」
「……はい……すみません」
「なんでサボったの」
「サボってません。ちゃんと、やりました」
「何処が……?」
「…………」
答えに詰まるニナに、イルミは続ける。
「時間はたっぷりあったよね」
「あ、ありませんでした」
「随分、生意気な口聞くね。こんなの写すだけだろ」
「申し訳ありません。でも……できません……」
イルミは呆れたように溜息をつく。
「その状態で、返す……」
低い声に身を縮め、思わず目を伏せるニナの手をイルミが強く引く。
楽譜がバサリと落ちて床に散らばった。
手首を掴まれ、捻り上げられる。そのまま壁に押し付けられ、全身に衝撃が走る。
「俺を舐めてるの?」
「ち、違い…………ッ……!」
イルミの細長い指が腕をギリギリと締め付ける。
「ッ…、…………」
どうにか誤解を解きたかった。ニナは必死で訴えるようにイルミを見上げた。
漆黒の瞳に吸い込まれそうになる。
どんな言葉も塗り潰され、意味を失うような深い闇色だった。