第1章 死を待つ瞳
今回の壁外調査も死者多数、成果無し。生き残った者は食堂で食事をし生を実感する。よくそんな元気があるなとノアは呆れた目をする。
「おい」
突然、頭上から低い声が降ってきた。見上げれば、眉間に深い皺を刻んだリヴァイ兵長が立っている。
「さっきから見てりゃ、お前……そのスープしか口にしてねぇぞ」
「胃に負担をかけたくないので」
私が淡々と答えると、兵長は「……チッ」と一つ舌打ちをして、私の向かいに腰を下ろした。
次の瞬間。兵長の皿にあったマッシュポテトの塊が、迷いなく私の皿へと移される。
「…………嫌がらせですか?」
私は思わず、山盛りになったポテトと兵長の顔を交互に見て、真顔で問いかけた。
「……命令だ。食え、ヴィンター。お前みたいな燃費の悪いガキに、次の壁外調査で足を引きずられるのは御免だ」
この人と会話をすると調子が狂う。しかし、ウォールマリアが奪われてから食料も減ってしまった。残すのには抵抗があるためノアは機械的に咀嚼を繰り返す。食べ終わったころには兵長はいなくなっていたが、「ごちそうさまでした」と小さくつぶやきながら席を立つ。
今日はとても疲れた。部屋に戻り、灯りもつけずにベッドへ倒れ込む。
口の中に残るポテトの熱だけが、自分がまだ生きていることを、ひどく場違いな方法で主張していた。
明日は掃除の点検があるはずだ。
兵長に「チッ」と言わせない程度には、綺麗にしておこう。
重い瞼を閉じれば、脳裏にはあの、死ぬには最高に綺麗な青空が張り付いていた。