第2章 迷宮のダンジョン
「あのままあそこにいたら、目ぇ回してぶっ倒れる花衣ちゃんが視えた」
「ごめんなさい、ああいうの、ほんと無理で」
「けっこう多いから気にしなくていいよ。今の花衣ちゃんみたいに顔面蒼白で倒れる人。でもそのうち慣れるから大丈夫」
「すいません。……ていうかすいませんついでにちょっとだけ横になっていいですか」
「うん、太刀川さん来るまで寝てていいよ」
我ながら遠慮も何もない申し出をすんなり受けてくれた迅さんは、だらしなく寝そべったあたしの前のソファーで端末を弄ってる。
こんなんなったのは昨日調子に乗って夜中までレポートしてたせいだ。寝不足も祟ったから、さっきのあのグロテスクごときにここまで持ってかれたんだ。
今の自分の無様な格好を俯瞰して見ると、情けなくて心の中で言い訳をした。
仮入隊の書類にサインをした時、粗方の説明は聞いてた。ボーダーの戦闘員はランク戦にしろ防衛任務にしろ、みんなトリオン体って言う仮想の体に入れ替わるって。
痛覚設定もあってよほどの好きモノじゃない限りオフにしてるし痛みなんて感じないって。聞いた時は単純に凄いと思った。でも実際に見るのとでは全然違った。
言われなきゃ分からないぐらい精密で精妙。
だから余計にリアルでグロい。
迅さんは慣れるって言ったけど、慣れたら最後のような気もする。突っ切るともう普通の感覚には戻れないよな。
「おい望月」
「………」
「おいこら、起きろって」
「………あ、れ、…………寝て、た?」
「爆睡してたぞ」
底のほうに沈んでた意識が誰かの声で急に浮上した。瞼を持ち上げると見下ろす不機嫌な太刀川さん。起きたばかりの体には特有の怠さがあるものの、嘔吐一歩手前のあの感覚は綺麗に消えてくれてる。