第4章 感情線の混線
冬の空はこの時間帯でもう既に暗い。
空気が澄んでる分、人工的な灯りが際立って、走る車のテールランプがゆらゆら揺れる。
空気密度のバランスが崩れると起こるその現象を、ぼんやり歩道の隅から見つめて、知り尽くした道を2人で歩いた。信号のある通りを右に曲がって少し行ったら、可愛いしし丸が待つ我が家だ。その手前、距離にすると僅か数百メートル。
今いる所からでも肉眼でうっすら見える外観に、胸の内側から思い出したみたいに嫌な音がどくんと鳴った。
あたし御用達のエスプレッソはもう2日口にしてない。そろそろ禁断症状が出るんじゃないかと思うものの、そもそもが多忙すぎて通えなかった。
こないだのことは、自分で思ってるより然程気にならなかった、今の今まで忘れてたってのもあるけど。近づいて、はっきりと鮮明に漏れる灯りは店の中から。真ん中まで来て、ガラス張りのその奥、閑散としているフロアが見えた。
時間も時間だ。そろそろ閉店なのかと、通り過ぎようとした時、上手い具合に扉が開く。
「こんばんは」
「こ、んばんは」
噂をすればなんとやら。ほんの一瞬頭の中に浮かべただけの人物が、完璧なる営業スマイルを携えてあたしをその視界に映した。
扉にかかってたオープンのプレートをクローズに変えて、軽く頭を下げてから店に入ってく後ろ姿。あの人ウェイターより役者になればいいのにと思ったのは完全な嫌味だ。
「知り合い?」
「てほどでもないです。あたしがここの常連で、さっきの人は店員さん」
「……へぇ」
「ていうか迅さん、どこにそんなの隠し持ってたんですか」
「んー?花衣ちゃんも食べる?」
「いやいいです、いらないです」
自分から聞いておいて興味なさげな返事をする迅さんの手には、ぼんち揚。そういやこの人いっつもこれ食べてるよな。カロリー高いのに太らないのが不思議。バリバリとそれはもう美味しそうに食べる彼を横目に、見えた集合住宅。その目の前、階段の入り口で足を止めた。