第3章 【直哉×魔性女中】
禅院本邸の玄関先では、かつて「正室」として迎えられたはずの女性が、着の身着のままの姿で立ち尽くしていた。
見送る者は誰一人いない。
門の前に停まった実家の車に、逃げるように、あるいは回収されるゴミのように押し込められていく。
彼女がどれだけ悪態を吐こうとも、直哉の耳には届かない。
彼にとって、不純物は視界に入れる価値すらなかった。
直哉の自室——かつては冷徹な当主としての威厳に満ちていたその部屋は、今や華やかな色彩に溢れていた。
「、こっちの赤はどうや? いや、お前の肌の白さなら、この金糸の入った白無垢の方が映えるかもしれんな」
直哉は、部屋を埋め尽くすように取り寄せられた婚礼衣装の山を前に、これまでにないほど上機嫌な笑顔を浮かべていた。
一反ずつ手に取っては彼女の身体に当て、満足げに鼻歌まで漏らしている。
「……直哉様、本当に……よろしいのですか? 私のような者が、このような晴れ着を…婚礼の儀などせずともよろしいのでは…」
はいまだに、自分が禅院家の正妻になるという現実が信じられず、困惑したように眉を下げていた。
傷ついた腕には丁寧に手当てがなされ、その上から直哉が選んだ極上の布がかけられている。
「何を言うとる。お前以上にこの家の正妻に相応しい女がおるか。
……それに、式はするぞ。今まで誰も見たことがないほど豪華にやらな気が済まん」
直哉は衣装を置くと、困り顔のままの彼女を正面から抱き寄せた。
「……っ、直哉様。お顔が近うございます……」
「ええやろ、俺の妻なんやから。
…困った顔も、ほんまに可愛いなあ。たまらんわ」
直哉は恍惚とした表情で、彼女の額、鼻先、そして柔らかな頬に、何度も、何度も、吸い付くような口づけを落とした。
それはもはや敬愛ではなく、手に入れた宝物を誇示し、自らの愛で塗りつぶそうとする独占欲だった。
「可愛い、可愛い、……これからは毎日、朝から晩まで俺に愛されておればええんや」
「……もう、直哉様ったら……」
呆れながらも、照れたように目を伏せる彼女。
その口元のほくろが、直哉の愛撫によって艶やかに綻ぶ。
直哉はその光景を独り占めできる優越感に、トロトロに蕩けきった三白眼を細め、再び彼女の唇を奪うべく顔を寄せた。