第1章 【直哉×働き者女中】
振り払おうとしていたの手が、止まる。
あんなに傲慢で、何ひとつ欠けたものなどないと思っていた男の顔が、今は苦痛と混濁した愛情でぐちゃぐちゃに歪んでいた。
「わからん……っ、どうしたらええか、わからん!
お前に風邪が移るのは嫌やったし、お前に重いもん持たせるんも、
冷たい水で手が荒れるんも、全部嫌やったんや!!」
直哉は、掴んでいたの手首を、折れんばかりに強く、けれど震えるほど大切に握りしめた。
「あいつらなんて、どうでもええ……!
だから顎で使えるし、汚いもん触らせても何とも思わん。けど、お前は違う……っ。
お前は、違うんや!」
初めて口にした、剥き出しの本心。
呪術界の家系に生まれ、女は男の三歩後ろを歩くものだと教えられ、弱者は切り捨てるのが当たり前だと思って生きてきた。
そんな彼にとって、「対等に支え合う」ことなど、想像もつかない概念だったのだ。
彼にできる精一杯の愛は、彼女を自分以外のすべてから隔離し、何ひとつ傷つかない場所へ閉じ込めることだけだった。
「……お前が働きたいって言っても、……たぶん、無理や。させられん。お前を大事にすることしか、できん…」
直哉は、の肩に顔を埋めるようにして、さめざめと泣き続けた。
その言葉は、どこまでも身勝手で、どこまでも不器用だった。
彼女が「役割」を求めていると分かっていても、それでもなお、彼女の指一本汚したくないと願ってしまう。
それが、この男の狂おしいほどに歪んだ恋情の形だった。