第21章 21.
「26万と820シーク...
『お給料』から貯めてたんですか?」
「ちゃいます」
侑士は、『貯金』を入れ直して封を閉めた瓶を、ズズ、と紫陽に差し出した。
「たまに、『とっておきなさい』と置いて行かはる人がおるんです。
ドクターは受け取らへんから、と」
「誰?」
「あー...んー、『紫陽には内緒』て言われとるんで」
「ふむ。
置いていく、ということは、定期的にここに人ね。
私をそう呼ぶってことは、少なくとも父と同世代かもしくはそれより年上」
推理を始めた紫陽に、侑士は焦った。
「『内緒や』言われとるんです。
誰かわかってもうたらっ」
パッ、と口元を手で覆った侑士。
それを見て、紫陽は、んー?と少し、意地悪な顔で侑士を追い詰めた。
「内緒にすることで、何か侑士にとって『いいこと』があるみたいねぇ?」
「あ、ありまへん!
そんなん、あるわけないっ」
「本当に?嘘はついてない?」
「うっ...つ、ついてないっ!」
「そう。
じゃあ、侑士は大きくなったら泥棒さんになるのね。
キョウさんがいるこの町で泥棒なんてできるわけないから、この町からいなくなってしまうのね...」
悲しいわ、と、紫陽は大げさにため息をつくと、切なく侑士を見た。
「あ、」
「さようならなのね、侑士」
きゅう、と苦しくなった胸に、いやや、と紫陽に手を伸ばした。
「嘘、ついた...」
ごめんなさい、と白衣の袖を摘んで俯く侑士は、少し前までの、まだ「子ども」の姿。
その様子に懐かしさえ感じながら、彼と膝を突き合わせる。
「『これ』のいい使い道が浮かんだ。けど、そうするには、くれた人との『約束』を破らなきゃいけない。葛藤したのね」
コク、と頷き、デスクに置かれた硬貨や紙幣が詰まった瓶を見た侑士の髪に手を伸ばした紫陽。
「あなたは、本当に優しいわ。やさしすぎるほどに」
「...優しすぎたら、アカンのですか?」
背丈も座高も、自分よりも低い紫陽を上目に見る侑士。
「そんなことない。
けど、優しさの使い方は、間違えないで」
「やさしさの、使い方...?」
「その優しさを利用しようとする人もいることを忘れないで」
「え、」
徐に椅子から腰を浮かせた彼女の唇が、わずかに額に触れた。
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