第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
* 凪side
七月の空気は、朝から重たかった。梅雨明けの容赦ない太陽の眩しさに思わず目を細める。病棟の冷房は効いているはずなのに、廊下を歩くと背中にうっすら汗がにじんだ。この季節は何もしなくても体力を奪っていく。
そんな中、緊急要請のコールが鳴り響いた。聞き慣れた音、緊張が走る瞬間、胸が跳ねる。体が反応して思わず一歩踏み出しそうになるのに、その一歩は出ない。元の同僚たちは私には目も合わさずに走り抜けていく。空白の中の私は置き去りにされたように、止まったままだ。
「気をつけて。どうか無事でいて…」
遠ざかる背中に、そう呟く。それは彼だけに向けた言葉じゃない。この場にはいない勝己にも向けた想いだった。
待つことしかできない私の個性はもう、機能してはいなかった。
「おねーさん…?」
ふと聞こえた小さな声に、現実に引き戻される。小さな手が、ぎゅっと私の指を握った。
「大丈夫?」
「あ、ごめんね」
「さっきのお医者さんたちはどこに行くの?」
「さっきの人たちはね、ヒーローと一緒に誰かを助けに行くんだよ」
「ショートみたいに?」
「そう…」
「…すごいお医者さんなんだね」
「そうだね、すごいね…」
「僕もね、ショートが助けてくれたんだ。それでね、この前ね、会いに来てくれたんだよ」
「そっか。ショートに会えて嬉しかった?」
「うん!頭撫でてくれて、ぬいぐるみくれて、リハビリ頑張ってお家帰ろうなって言ってくれた」
そう話す瞳はきらきらと輝いていた。さっきまで不安そうに揺れていた瞳はまっすぐ前を向いている。
「じゃあ今日も、リハビリ頑張ろう」
「うん…」
繋いだ小さな手は暖かくてまだ頼りない。その力は小さいけど私の心にはっきり届く。この手を離さないことが、今私にできる全てで、私が私でいられる時間だ。
リハビリが終わり、男の子を病室まで送る途中だった。まだ小さな手を握ったまま歩く。カーテンの隙間からは白い光が漏れて影と光のコントラストがやけに綺麗に見える。
「……あ」
そのとき、病室の前で視線が止まる。繋がれた手に力が籠って、明るい声が弾ける。