第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
「悪い。俺がちゃんと確認しときゃよかったな」
「ううん、そうじゃない。自分の運動神経のなさと不甲斐なさを恨んでるの。運転もまともにできないから」
「必要ねぇだろ」
「どうして?」
「俺がいンだから…」
唇を尖らせたまま、その目だけがじっと俺を追ってくる。ほんの少し不服そうな表情なのに可愛さまで混ざっている。
「行くぞ…」
かき乱されそうになる感情を抑えて、凪の手をとって歩道へと出た。人もほとんどなくなった通りは何の邪魔もされない二人の空間みたいに感じる。ぎこちなく重ねた手も、すぐ隣に凪がいる感覚も、なんてことのない夜を特別な時間に彩る。
何も喋らず手をつないだまま歩き、信号につかまれば伸びた影が重なる。歩みを止めても隣の凪は前を向いたまま、喋らない。
「拗ねてんのか?」
「……ううん、違う」
「じゃ、なんか喋れや」
「……うん。……正直ね、……嬉しいなって思ってたんだ」
「……は?」
「昼間はこうやって二人で歩けないし、勝己って手を繋ぐようなタイプじゃないって勝手に思ってたから…。私、勝己の彼女なんだなって噛み締めてたの」
「……ンだよ、それ」
「だから拗ねてたんじゃない。嬉しくて、何も言えなかったの」
小さく呟くような声が触れたその瞬間、胸の奥がぐっと熱くなるのを感じた。胸がぎゅっと締め付けられるようで息が詰まる。
「…凪」
「ん?」
その声に反応するように凪は俺を見上げた。
「猫みたいに目ぇ丸くして、いちいち可愛くしてんじゃねぇ…」
ゆっくりと近づき、静かに唇を重ねた。柔らかくて、甘い。歩行者用の信号が赤から青に変わるのも気にならない。目を閉じて、胸の奥に広がる熱さを感じていた。
好きだとか愛してるとか、そういう浮ついた言葉は俺には似合わない。
ただこいつのためなら全部投げ出したって惜しくはない、本気でそう思った夜だった。
この想いは二年経った今でも色褪せないままだ。
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