第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
* 爆豪side
生暖かくて湿った空気が身にまとう夜。ビルの屋上に腰を下ろし、冷たい金属の手すりにもたれながら、遠くで鳴り響くサイレンの音を聞く。スマホには任務完了の通知が入っていて、飲みかけのプロテインドリンクを一気にあおる。正直、この味にはもう飽きていた。
「……マジでこの任務、どうにかなんねぇのか」
次から次へと現れる敵。拠点を制圧してもどこからともなく湧いてくる。一気に殲滅できるのに、その許可が降りない。こんな夜はため息すら重い。
「凪の飯、食いてぇ…」
暗闇に消える誰にも届かない本音。思い出すのは、初めて凪ん家で食った麻婆豆腐。特別な味付けじゃないのに、なんであんなに美味かったんだろう。〝普通だ〟と返す俺に、嬉しそうに笑って、いつでも作れるようにってひき肉と豆腐は切らさないとか、馬鹿みたいに素直で優しかった。
そんな当たり前のことが、今は懐かしい。
屋上に吹き抜ける夜風がほんの少しだけ、思い出を撫でる。センチメンタルは柄じゃない。さっさと次の拠点に移ってこの任務を1日でも早く終わらせる。そのために俺はここにいる。
スマホで位置情報を確認した、その時、スマホが震えた。画面に浮かんだ名前を見て、眉をひそめる。
「…轟?」
〝急ぎじゃないが気になることがある。連絡が欲しい〟内容はそれだけ。
「あァ?…ンだこれ?」
轟のことだ、どうせ任務絡みか、事務所同士の面倒な調整だろう。今この状況で、わざわざ通話を繋ぐほどの話でもねぇ。
「後でいい…」
そう呟いて、スマホをロックする。次の拠点までのルートを頭の中でなぞりながら、立ち上がった。
終わらせて、帰る。
それが全てだと俺は信じて疑わなかった。
身体に残る重さを振り切り勢いよく屋上から飛び降りる。着地の衝撃を爆発でかわし、次の拠点を目指す。夜の繁華街のネオンと車のライトを上空から見下ろす。
……前にも、こんな夜があった。記憶に残る景色が過去を連れてくる。