第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
* 轟side
病院の廊下は、空調の低い音だけが響き今日も静かだった。入院当初は鎮静剤の影響もあってか、反応が悪くぼんやりとしていた凪も、ここ数日はずいぶん落ち着いてきていた。
面談室のドアをノックすると、中から低く柔らかな声が返ってきた。ドアを開けると主治医はパソコンのモニターを見つめたまま、ゆっくりと顔を上げる。
「付き添いの方ですね。凪さんの退院前の面談になります」
軽く頭を下げ、用意されていた椅子に腰を下ろす。主治医の後ろの薄緑のカーテンが空調の風に揺れている。カルテの内容を確認するまでの間、静かな沈黙が流れた。
「お待たせしました。まず、凪さんの状態ですが、入院当初は鎮静剤の影響もありましたが、ここ数日で落ち着きを取り戻しています。傷の治りも順調なので明日の退院は可能です。退院前に抜糸をしましょう」
「わかりました」
「今回は精神的な負担が大きかったので、無理に通常の生活に戻す必要はありませんが、少しずつ慣れていくことが大切です。ご本人の安全を最優先にサポートをしてあげてください」
「はい」
俺は小さく息を吐いた。主治医の穏やかな言葉をひとつひとつが胸を刺す。あの日、そばにいたのに止められなかったのは俺だ。凪がこれ以上一人で抱え込まないように、自分を責めないように、今、できることをしてやりたい。その思いが強くなる。
「気分の異変や自傷の兆候などがあればいつでも相談してください」
「はい。ありがとうございました」
もう一度頭を下げながら、胸の奥で、覚悟が静かに固まっていくのを感じていた。面談室を後にして、爆豪と緑谷に凪の退院が決まったことだけをメールで知らせた。