第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
朝5時の街はまだ静かで、空気はひんやりとしていた。遠くで犬が鳴くくらいで、通りにはほとんど人の気配はない。凪のアパートもいつもと変わらない風景の中に静かに佇んでいる。ここに来るのはいつもと同じなのに、少しだけ胸の奥がざわつく。
数週間ぶりの凪の部屋の前。いつものように内側のポケットから合鍵を取り出して鍵穴に差す。まだ寝てる時間だろうからとゆっくりと鍵穴を回して、いつもとは違う感触に違和感を覚えた。
「開いてる…?」
凪が鍵を閉め忘れたことなんねぇのに…。疑問符を浮かべながら音を立てないように扉を開いた。そして、落とした視線の先には見覚えのない男ものの靴。俺の知っている日常ではない事実が警告音を鳴らすように駆け巡って一気に鼓動が速くなる。
警告音の先の静かな空白の後、そこで俺は足を止めた。
「んで、てめぇがここにいんだよ…」
疲れているせいで悪夢でも見てるのか?そう思うほどに理解が追いつかない。轟の腕に抱かれる凪は二人同じタイミングで俺に視線を重ねた。
「はっ……ンだよ、これ。……マジで、意味がわかんねぇ」
「爆豪、聞いてくれ」
凪の前に出る轟に全身に緊張が走る。自分では抑えられそうにない感情が理性を奪う。
「この状況の言い訳でも聞かされンのか?あ″ァ!?」
「違う。そうじゃない。爆豪、聞け!凪は今…」
「聞きたかねぇ!!」
轟が、気安く凪の名前を呼ぶのが許せなかった。一瞬で頭に血が上り、近くに置いてあった椅子を蹴り上げた。派手な金属音を立てて崩れ、その後、静まり返った。
凪はただ、何も言わずに俺を見つめていた。
小さく震えながら、それでも逸らさずに。
否定しねぇなら、
………凪、
終わりだ。
一瞬、息を呑むように目を見開き、すぐに、何かを諦めたようにその光が静かに沈んだ。
「勝己……。これでよかったんだよ」
あいつは、そう、笑った。
next.