第2章 元彼編
「うわっ!! お前、なんでいるんだよっ!」
奥から現れたのは、トランクスだけの半裸姿に急いでTシャツを着ようとする男だ。
細マッチョで耳にピアスが並ぶ彼は、舌打ちをして寝癖のついた金髪を掻き乱した。
彼の名はマティアス。四日前に別れを告げた、同い年の元恋人だ。
あなたが言葉を失っていると、廊下の奥から女性が出てくる。
「帰ってこないって言ったじゃん!」
彼女は怒りながら慌ててコートを着込み、あなたのことを引きつった表情で見やって去っていった。
あなたはようやく震える口を開く。
「⋯⋯なんでまだいるの。荷物まとめてって言ったよね。ここ私の家なんだけど」
「いや、そんなすぐ出て行けなくね? つうか俺らまだ別れてねえだろ? お前が勝手に家出しただけだし」
「出てってよ!! 信じられない、なんでここでそういうことするの!?」
あなたは傷ついて涙があふれてくる。
浮気現場を見たからではない。彼への思いはもうほとんどなくなっている。
でも半年だけではあるが、最初はここで二人、希望をもって仲良く生活していたのだ。
そのひとときの思い出すらも汚された気がして、どうしようもなく打ちのめされた。
歯を食いしばって立ち尽くすあなたに、マティアスは追い打ちをかける。
「だって仕方ねえじゃん。何回やってもお前出来ねえんだから。浮気されても文句言えないだろ? こんぐらい許せよ。別に本気じゃねえからさあ⋯⋯なぁ」
こちらに近づいてきて、彼はにやけ面を浮かべる。
あなたは拳を握り、わなわなと震えた。
全身に目眩がして喚き散らしてやろうかと思ったが、情けない思いがまた涙としてあふれた。
「泣き虫。⋯⋯泣くなよ。俺だってお前のこと好きだよ? 一番はお前だって、名無し。ずっと一緒だっただろ、いつも⋯⋯」
甘い声音でマティアスの手が伸びてくる。
あなたは長い髪に触れられそうになり、その手を払いのけた。
そしてぐっと睨みつける。
「触らないで。早くここから出てって⋯⋯ッ」
「いやだ。お前が帰るまで待ってるから。なあ早く帰ってこいよ、俺家事出来ないの知ってるよな」
軽くぼやきながら話すこの大学生の男は、まるで相手の気持ちを無視している。
長い付き合いで結局は許されると思っているのだろうか。