【HUNTER×HUNTER】水面に映る雷光【キルア】
第4章 道化師の介入
「……次から」
低い声。
「なるべく1人になるな。水浴びの時も」
命令口調だが、強くはない。
テティスは、少し困ったように笑う。
『……過保護』
「自覚ある」
即答。
そのやり取りに、
わずかに空気が和らぐ。
しばらくして、焚き火の音に紛れるように、
テティスがポツリと小さく声を出した。
『……キルア』
「ん?」
短い返事。
顔は上げない。
『今日……』
言いかけて、少し間が空く。
『……近かったね』
一瞬、空気が張りつめる。
キルアは竿先を見ながら、喉を鳴らした。
「……ああ」
否定しない。
でも、肯定しきるでもない。
『……ごめん』
テティスの声は低く、慎重だった。
『嫌だったら……言って』
責める響きは、どこにもない。
ただ、確認したいだけの声音。
キルアはすぐに答えない。
少し考えてから、視線を逸らしたまま言う。
「……嫌なら」
一拍。
「あんなこと、しない」
それは弁解でも、開き直りでもなかった。
「……でも」
言い足してから、言葉を選ぶ。
「急だった。
驚かせたなら……ごめん」
ほとんど聞こえないくらいの謝罪。
テティスは目を瞬かせる。
『……ううん』
首を振る。
『私も……』
言葉が、少し詰まる。
『嫌、じゃなかった…
キルアだったから』
――他の人と違って……
二人の間に、静かな間が落ちる。
焚き火が、ぱち、と弾ける。
キルアは小さく息を吐いた。
「……なら、いい」
それだけ。
テティスは、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じる。
(触れたい、じゃなくて……
触れても、壊れないか確かめてる)
互いに、
言葉にしたら戻れなくなる何かを、
慎重に、指先でなぞるように扱っている。
だからこそ、
それ以上は言わない。
言わなくても、
今は――
ちゃんと、伝わっているから。
テティスはキルアの隣に移動する。
二人の距離は、以前よりずっと近い位置にあった。