第15章 合流
その日も呪霊狩りへ行く二人を見送り、八重は帰りを楽しみに待ちながら食事の準備をする。
粗方準備を済ませると、八重は脹相がそうやるように窓辺に座り、瞳を閉じて彼の気配に心を寄せる。
呪霊狩りをしている時の脹相はあまり感情に揺れがない。
ただ淡々と駆除している、という感じである。
背中が少し温まる。
朝日が昇り始めたのだろう。
もうそろそろ脹相から〝今から戻る〟と声が届くのではないかと待ちわびる。
しかし、突然緊張とある種の高揚が跳ね上がるのを感じ、八重の身体も跳ねた。
この感覚は既に知っている。
今、脹相の目の前にいるのは呪霊じゃない。
術師か呪詛師、人間である可能性が高い。
その後、いきなり痛みの感情が断続的に流れてくる。
痛くはない。
しかし、脹相はかなり痛いだろう。
奥歯を噛み締めて耐える。
かなり一方的にやられているようだ。
しかし、脹相の兄としての使命感も高まる一方だった。
そして、続いていた痛みが止み、再び冷静が戻って来る。
(よかった…無事に終わるみたい…)
そう、胸を撫で下ろした瞬間だった。
いきなり脹相の感覚が消えた。
一拍遅れて八重の呼吸が止まる。
指先から熱が引く。
耳鳴りがするほどの静寂の中で、自らの心臓の波だけが煩い。
考えたくもないのに最悪のことが頭を過ぎる。
胸が苦しくなって、ようやく呼吸を再開する。
そして思考が回転し始める。
(何が起こったの?)
(脹相は?悠仁くんは?)
(今から向かうべき?)
(でも、遠すぎる)
(向かったとして、入れ違いになる可能性も…)
(でも、早く行かなきゃ、もしもの時、間に合わない)
(――何もしないで、また一人になるのは、嫌だ)
八重は最後に脹相の気配がした方を目指して駆け出していた。
朝の空気が肺に入って、身体の中から冷やしていく。
懸命に走るが足がもつれて何度も転びそうになる。
いくら走っても目的の場所は遠い。
走りながら、八重は自分を不甲斐なく思う。
彼らのように呪力強化で人間以上の能力を引き出せるわけではない。
ただ生き永らえているだけで何かを成し得る力もない。
あるのは自らを削ってでしか得られない力。
それもこんな状況では使えない。
無力感が八重の心を塗り染める。
それでも足を止めない。
今はそれしかできないから。