
第20章 【九十九】八百比丘尼と呪胎九相図

虎杖くん一行が高専の隠し部屋に着いた時、一番最後に階段を降りてきた彼女を見て、「とんでもない客を引き入れたもんだよ!」という湯婆婆のセリフが頭を過った。
人の形をしているのに纏う雰囲気は天元や羂索と同種の、時の重みを感じる。
それが彼女自身のものではなく何か大いなるものに与えられているという印象なだけに異質。
よくもまぁそんなものを背負わされて飄々と立っていられるな、と感嘆するレベルだ。
私と同じ特級の乙骨くんがいながらコレを引き連れてきたのだからよっぽどのことがあるのだろう。
どこから拾ってきたかと思えば、九相図の長兄の半歩後ろに控える感じ。
あぁ、そっちの関係者?
じゃあ、もしかすると天元との関わりもあるにはありそうだ。
少しでも天元と接触できる可能性を持っているなら、薨星宮への同行には何も言わないことにした。
薨星宮へ向かう道すがら、虎杖くんに彼女のことを尋ねれば、「飯作ってくれる、人?」なんて抽象的な返しをしてくる。
おいおい、こんな得体の知れない大物を飯炊き女呼ばわりするとは、彼もなかなかに大物だ。
そんなことを考えていると、乙骨くんが「刹那さんは八百比丘尼なんですよ!」と少々興奮気味な紹介してくれた。
それで合点がいった。
魂の研究をする上で不老長寿は避けては通れないテーマだ。
もちろん『八百比丘尼』に関しても調査はしてある。
しかし、ある一定の時代で入定説が主軸となり、あとは『八百比丘尼』は不老長寿ではなく世襲制の役割であるという話まで出ており、一個人としての八百比丘尼を追うことはできなかった。
今回の案件が終わったら彼女には私の研究にぜひ協力してもらいたい。
その為には今は手の届くところにいてもらわなければ。
それ故の『〝八百比丘尼〟の名は今後一切名乗らないほうがいい』
例え呪術界であっても、否、呪術界だからこそ、彼女を取られる訳にはいかない。
そういう可能性の話をすれば、九相図が今にも噛みつかんばかりに睨みつけてくるじゃないか。
守っているのか、守られているのか、関係性が不明瞭だな。
まぁ、何にせよ。
一度くらいは彼女自身に選択の余地があってもいい。
だから、逃げ道を示してあげた。
それに対して彼女は――まっすぐ私の目を見た。
否、違う。
その奥の私の心を見据え、まっすぐ言葉を、心を届けてくる。
何のラッピングもされていない彼女自身の心を。
