第19章 耐え忍ぶ
熱く、苦しいその感情をどうにか冷ましたくて、八重は脹相を見上げる。
もちろん脹相は八重のことを見てもいなくて、目が合うこともなくて、名前を呼ばれることもなくて、苦しさは増すばかりだった。
だから、八重は―――苦痛を苦痛で上塗りすることにした。
脹相の手に添えた手に少しだけ力を込めて、心の中で脹相の身体に話しかける。
身体の痛みの存在。
そこにあることを拒絶する。
おいでおいでと誘い出す。
心の痛みは無理だが、身体の痛みは連れ出せる。
苦しむのなら、せめて脹相のもので苦しみたかった。
痛みは喜んで八重に寄ってくる。
その全てを八重が抱え込む。
途端に広がる全身の痛みに八重は気が遠くなった。
卒倒してもおかしくない痛みなのに不死の身体がそれを許さない。
あんなに熱かった身体からは熱が引き、震える。
呼吸と拍動は浅く、早くなり、冷や汗が止まらない。
いくら脹相が八重を見ていないからといっても、こんな状態でここにいてはいつ気づかれるかわからない。
早くどこかにいかなければと思うのだが、まず痛みで身体が動かない。
そして、この手を離したくもない。
そうしてしばらく二人は言葉もなく震えていた。
「…ちょっ!君たち、何っ!?」
ひどく驚いた声が聞こえて八重は顔を上げる。
声の主は見たことない。
髪が一部分青く染められて、肩と腹が大きく出ている女性のような格好をしている。
瞳を見れば純粋な戸惑いしかないところを見ると敵ではないようだ。
高専の人だろう。
(…もう、ここを離れても大丈夫……)
八重は気力だけで無理やり立ち上がる。
声をかけてきた人物に不出来に微笑みかける。
「…この人を……脹相を、お願いできますか?出来れば服を貸していただければいいのですが……寒いのが苦手な人なんです……」
薨星宮から出てきてからずっと上半身が剥き身であったことを思い出し、そのように頼むとその人は「え、あ、うん」と戸惑いながらも急いで取りに走ってくれた。
(良い人でよかった……)
八重はその隙に痛む身体を引きずり、その場を離れた。
痛みが引くまで脹相とは距離を取ろうと。
出来れば誰も来ないようなところに。
そんなところは他に知らないので、結局は元いた地下室に身を寄せるしかなかった。