第18章 サイカイ
食べることも眠ることも必要ない八重は体内時計というものの感覚がない。
そのため、だいたいの時間感覚は日の出入りでしか把握していない。
乙骨の拠点に来てからというもの、ずっと屋内にいるため八重は時間の感覚が掴めていなかった。
皆が焚火を囲み、眠りについてからしばらく経つのでもう夜も更けているのだな、くらいだった。
眠らない八重は脹相の腕の中で、パチパチと音を立てて揺れる焚火の炎を眺めていた。
そうしていると少しずつ、しかし確実に脹相から引き受けた痛みがなくなっていくのを感じた。
気のせいではない。
痛みに慣れたのでもない。
目の奥の鈍痛も脇腹の鋭痛も、等しく波が引くように去っていく。
それには八重も戸惑い、痛みの感覚を追うがみるみる内にどこかへ行ってしまい、遂にはなくなった。
あんなに辛かったはずの痛みなのに、今となってはどんなものだったかすら思い出せない。
そのくらい跡形もない。
思わず脹相の顔を見る。
まさか痛みが脹相に戻ってしまったのではないかと思ったのだ。
しかし、脹相は先程と変わらずに眠っている。
表情一つ変わらない。
これだけではわからないが、とりあえず脹相は大丈夫そうだと八重は判断した。
痛みがなくなったため、身体の変調もなくなった。
指先にも血が巡る感覚が戻る。
(もう、大丈夫そう)
そう思って八重は少し身じろぐと、他の者の眠りを妨げないよう脹相にだけ聞こえるくらいの声を出す。
「脹相…脹相…」
そうすると脹相は薄っすら瞼を持ち上げた。
八重は脹相の視線が自分に合うのを待ってから。
「もう痛みがなくなりました。だから…」
離してほしいと伝える前に脹相は再び瞼を閉じると、今までよりも少しだけ腕に力がこもった。
離れようと思っていたのに、更に動けなくなってしまった八重は何度か脹相の名を呼び、身体を揺するが返事をする気配はない。
顔を見れば先程と違って眉が寄っているところを見ると起きているのではないかと思われるのだが、反応は完全になかった。
八重には脹相が何を思ってそうしているのかがさっぱりわからなかった。
しばらくそうしてみたが変わらないので諦めて腕に収まり続けるしかなかった。