白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第24章 ● 続く、会えない日々 ○
本因坊リーグの対局室に入ると、緒方はいつもより少しだけ胸を張っていた。ネクタイピンは、昨年のホワイトデーに星歌から送られたもの。胸ポケットには、クリスマスプレゼントであるモノトーンのドット柄ポケットチーフ。
ネット中継のカメラが緒方に寄った瞬間、コメント欄が一気に加速した。
「ポケットチーフが碁石風ドット?」
「これは彼女からで確定だな」
「勝利の女神より授かりしポケットチーフ」
そんな中、ひときわ注目を集めるコメントが流れる。
「ネクタイピンとポケットチーフのハッピーセット」
キャッチーなワードは、瞬く間にトレンドに浮上した。星歌は、学校での休み時間に中継をチェックして苦笑い。
「…また変なことでバズっちゃってる…」
緒方精次と塔矢アキラ、兄弟弟子の初対局の結果は、兄弟子である緒方の中押し勝ちであった。検討を終えて対局室を出ると白川が明るく声をかける。
「またバズってるぞ。ハッピーセットだってよ?」
「…何だそれ?」
「ネクタイピンとポケッチーフ、緒方の勝利のお守りの名称だな」
「…変な名前を付けやがって…」
緒方はボヤくが、星歌がくれたお守りだ…と悪い気はしていなかった。
その夜、緒方と星歌は電話で話す。
「アキラ先生に勝ったね、おめでとう!」
「ありがとう。また変なことでバズってるがな」
「ハッピーセットって、ハンバーガーみたい」
「そうだな。まァ、囲碁界が盛り上がるなら、いいだろ」
「精次さん、ずっと忙しそうだけど、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「来週、会える時間ある?」
緒方はスケジュールを確認する。
「来週は少し難しいな。すまない」
「うん、わかった。棋院で会えるよね?」
「カフェにはできるだけ顔を出す」
「うん、待ってるね」
時計を見ると23時過ぎ。星歌は明日も学校だ。寝坊して遅刻でもしたらまずい。
「もう遅いな。おやすみ。また今度」
「うん、話せてよかった。おやすみ」
緒方は電話を切ってから、正月以降、星歌との時間が取れてないな…と、ふと寂しくなる。来週は無理だが、近いうちに絶対に時間を作ると、小さな決意を燃やしていた。