白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第24章 ● 続く、会えない日々 ○
研究会が長引き、緒方が帰宅したときには日付が変わっていた。玄関の鍵を開け、リビングの明かりを点ける。何気なくテレビのリモコンに手を伸ばすと、深夜の再放送枠で昭和のサスペンスドラマが流れていた。
制服姿の女子高生が暗い夜道を早足で歩いている。背後からは怪しい人影が近づく。少女は気づいて走りだすが、狭い路地に追い詰められて犯人に組み伏せられる。
「いや!やめて!誰か助けて!」
若い女優の絶叫がリビングに響いた。その瞬間、緒方の指は反射的に電源ボタンを押した。画面が真っ暗になる。静寂が戻った部屋で、胸の奥がどす黒くざわめいた。星歌の顔が、あの女優とぴったり重なった。制服姿のまま夜道を1人で歩く星歌。誰かに追いかけられて、逃げても逃げても捕まって…。拒絶の叫びは聞き入れられず、涙を流して抵抗するが、男の力に適うはずもなく…。想像しただけで胃の底がキリキリと痛む。実際にいるはずのない犯人に対しての殺意すら湧いてくる。もし、こんなことが現実に起こったら…。
星歌はまだ高校生だ。帰りが遅くなるときもある。駅からマンションまでの道は比較的明るいが、通りを1本奥に入ると、街灯が少ない場所もある。そんなところに連れこまれたら、どうするんだ…。今まで何度も送り迎えしてきたけれど、自分がいないときだってある。
悪い想像に指先が震える。星歌の声を聞いて心を落ち着かせたい…と、スマホを取りだす。だが、星歌の名前を見つけると、ふと冷静になる。こんな時間に連絡したら、余計な心配をかけるだけだろうと、画面を閉じた。
落ち着け、さっきのはただのドラマだ。現実とは違う…。自分に言い聞かせる。星歌はオレが守る、何があっても。胸の奥で、静かな怒りと熱い決意が行き交っていた。