白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第22章 ● 幸せなクリスマス&大晦日 ○
大晦日の夜、緒方家では穏やかな時間が流れている。シンクには空になった年越しそばの器が置かれたまま。テレビでは紅白歌合戦がクライマックスを迎えている。星歌はクッションを抱え、目を輝かせて画面を見つめる。
緒方は隣で、星歌の横顔が楽しそうに揺れるのを見て、胸の奥をあたためている。
時計は23時を回っている。いつもなら、とっくに家に帰している時間だ。緒方は小さく息を吐く。
「そろそろ…帰る時間だな」
「…え、もう?」
大晦日くらい泊まってもいいんじゃないか…。そんな甘い誘惑が、緒方の頭をよぎる。だが、そんなことをしたら、自分を押さえきれるはずがない…。
この年末年始、星歌は一柳家で過ごすことになっている。大晦日ということで特別に、日付が変わる前に帰ればいいとの約束だ。今日、星歌の帰る場所が一柳家でよかった。もしいつも通り自宅に帰る予定だったら、きちんと帰せたかどうか自信が持てない。
星歌は立ち上がり、マフラーとコートを手に取る。その仕草を、緒方は黙って見つめるだけだった。
玄関で靴を履きながら、星歌が小声で言う。
「明日、朝9時だよ?」
「ああ。初詣、ちゃんと行こう」
車は静かに夜道を走る。雪がチラつき始めた。一柳家の門前でエンジンを止めると、緒方はそっと手を伸ばして、星歌の手を握った。
「星歌、今年もありがとう」
「こちらこそ、ありがとう、精次さん」
こんなふうに見つめあっていると、1年前を思いだす。ゴッホ展からの帰り、2人の視線が絡み合った瞬間。まだ恋人同士ではなかったが、きっと2人の気持ちは同じだったはずだ。そして、今でも2人は互いを大切に想い続けている。
近くで除夜の鐘が鳴っている。車の中で2人はただ、静かに手をつないでいた。雪がフロントガラスに舞い降り、すぐに溶けて消えていく。
「また明日な。おやすみ」
「うん、また明日。おやすみ。送ってくれて、ありがとう」
明日になればまた会える。自分にそう言い聞かせ、緒方は一柳家をあとにした。