第48章 祭典と籠
紅海は、いつも通りだった。
朝、顔を合わせれば笑って挨拶をする
食事のときには他愛のない話をして、五条が余計なことを言えば、いつものように文句を言う
少なくとも、五条から見れば
あの時の事がなかったかのように、紅海は笑っていた
なんだ…いつも通りなら気にすること無いかな?
そう思うこともあった
紅海が気まずそうにしたり、露骨に距離を取ったりすることを、どこかで覚悟していたのかもしれない
けれど、実際の紅海は、五条の顔を見るたびに明るく笑う
以前より少し元気すぎるような気もするが、もともと彼女は、周囲に心配をかけまいとするところがある
気のせいだと言われれば、そうなのかもしれない
五条自身、確かめることはしなかった
自分が今まで通りでいようと言ったのだから、紅海がその言葉を受け入れてくれたのなら、それでいい
そう考えることにしていた
ただ、ひとつ
五条には、紅海に話しておかなければならないことがあった
「紅海、ちょっといい?」
その日の午後
報告書を書いている紅海に声をかけた
『ん? なあに?』
「少し話があるんだけど」
『うん、私も話がちょうどあったんだよね…』
「そう?じゃ、とりあえずこっち」
指導室を指差す
紅海は頷いて、五条と一緒に入室した
椅子に座ると紅海は五条のほうへまっすぐ向く
「……そんな構えなくていいよ…別に指導するわけじゃないし」
『えっ、私、構えてた?』
「いや、めちゃくちゃいい姿勢してるからさ、怒られると思った?」
『違うよ!ちゃんと聞こうと思っただけだよ』
「はいはい」
五条は笑いながら、近くの椅子に腰を下ろした
それから、少しだけ声の調子を落とす
「……メカ丸のことなんだけど」
紅海の表情が変わった
『メカ丸くん?』
「うん…与 幸吉…中の方ね?」
五条は、いつもの軽い調子を少しだけ引っ込めた
「内通者が誰なのか、調べてたでしょ…あれ、彼だった」
『……え?』
紅海は、すぐには言葉を返せなかった