第44章 おいでとさぼり
紅海が浅葱の家で暮らし始めて、何日か経った
早朝…
「紅海ー?起きてるかい?」
『……うん』
布団の中から小さな返事が返ってくる
「じゃあ、おいで…朝ご飯できてるよ」
『…うん』
「今日はね、お味噌汁と、ご飯と卵焼きだ」
紅海は少しだけ布団から顔を出した
『……たまご…』
「そう、お前、好きだったろ?」
『…うん』
それだけで、紅海は起き上がった
家から持ってきた服を選び着替えると
廊下に出る…すると、台所からいい匂いがする
食卓には、湯気の立った味噌汁
焼いた卵、白いご飯
そして、大好きな味付け海苔も置いてある
紅海は食卓を目の前に正座する
『いただきます』
「はい、どうぞ」
一口食べる
卵焼きは、少し甘かった
『……おいしい』
美味しいものは人を笑顔にする
「そうかい」
浅葱は、それだけ言って笑った
子供の好きな食事なんて
もう20年程は作っていない
いつも通りの朝食だ
子供達も独立して、ここ何年も一人で食事をしてきた浅葱にとって
食事の感想を聞くのが嬉しかった
紅海はもう一口食べる
それから、ちらりと浅葱を見る
『……おばあちゃん』
「ん?」
『これ……もう一個、食べてもいい?』
「もちろん、遠慮せず何個でも食べな」
『……うん』
紅海は小さく笑った
昼間は浅葱は神社の用があるので
紅海は一人で縁側に退屈し座っていた
庭を眺めていると、小さな呪霊が塀の奥の木の陰から顔を出す
じっとこちらを見ている
『……こんにちは』
小さく手を振ってみる
すると呪霊も、紅海の声に反応して、もぞもぞと動いた
『かわいい』
その動きが幼い彼女には小動物のように見えて
近づきたくなった
紅海が、沓脱石に裸足で降りようとした時
「紅海…近づいちゃあダメだ」
後ろから浅葱が声をかけられる
えっ…あんなに可愛いのに…と言いたげな顔で祖母を見て
紅海は少しだけ首を傾げる