第19章 笑わない人が笑った時ってキュンとする(爆豪勝己)
勝己がそう言うと、現金なもんで上鳴が元気よく立ち上がった。
「よっし!行こ!爆豪行こ!」
何故かルンルンの上鳴に引っ張られながら、全く気も進まずに勝己は店に足を踏み入れた。
ここに来たことが、後々自分の運命を変える事になるとも知らずに。
「いらっしゃいませ」
オーセンティックバー程ではないものの、少しだけ絞られた照明の店内に入ると、そこには既にカップルだったり男性グループだったりが思い思いにお酒を楽しんでいた。
慣れた様子でカウンターの席に腰掛けた上鳴を見て、そんな慣れてんなら1人で来いやと勝己は思った。
「ご注文はどうされますか」
目の前にいたバーテンダーの男性が話しかけてくる。
「爆豪、なんにする?」
「……適当でいいわ」
酒の種類もイマイチ分からなかったので、上鳴に全振りした。
「じゃあ、マンハッタン2つで」
「かしこまりました。繭莉、マンハッタン1つ作ってくれる?」
男性が、後ろでグラスを拭いていた女性に声をかける。
その声に振り向いた女性が、コクリと頷いてグラスを1つ男性に渡す。
ミキシンググラスに氷を入れている彼女に、上鳴が話しかけた。
「繭莉ちゃん、久しぶり」
「……お久しぶりです上鳴さん。今日は、峰田さんじゃないんですね」
やり取りの感じからして、2人は初対面ではないらしい。
しかし峰田と上鳴は、いつもこんな所に出没しているのだろうか。
勝己がそんな事をぼんやりと思いながらお酒が出来るのを待っていると、繭莉と呼ばれた女性がライウイスキーをミキシンググラスに注ぎながら口を開いた。
「上鳴さん、サイドキックの件なら諦めて下さいね」
その一言で、隣の上鳴がガクッと項垂れた。
どうやら、彼は繭莉をサイドキックにスカウトするつもりだったらしいのが見て取れる。
「繭莉ちゃん……いやっ、マジお願い、この通りっ」
煩くならない程度に上鳴が縋りつく。
目の前で手を合わせるが、繭莉は眉一つ動かさない。
「お待たせしました、マンハッタンです」
注文されたまま、マンハッタンを勝己の前に出すと、彼女はまたグラスを拭き始めた。
「フラれちゃいましたね」
男性のバーテンダーが上鳴にマンハッタンを出しながら苦笑いした。