第1章 狂犬
帰り道、日はとっくに暮れていた。
バレー部だけでなく、他の部活の奴らもゾロゾロと出てきている。
周りが寄り道でもするかと盛り上がる中、俺は一人で校門を出て、帰り道を急ぐ。
「京谷!」
「…なんだ」
「いや見つけたから」
「…」
なに、と言いながらふ、と笑う。その顔に嫌気も、毒気も無い。
「お疲れ様。また明日ね」
この女は、普段真面目な顔をしていることが多い。授業も、催事も本人なりによく考えているようだ。
友達と話している時はたしかによく笑っているが、それとは少し違う。
柔らかくて、少しくしゃっとしたような、どこかあどけないふわりとした笑顔。
…この女はこういう奴だ。
「………また明日」
「朝練も頑張ってね!
「…おぅ」
笑った顔に、つい心が弾む。
弾んだ心の通りに表情も動きそうになる。
でも、それは、いつも動かずに終わる。
「おー、お疲れ」
「はーくん!」
「…ッス」
岩泉さん。
この人が来ると、こいつは俺には見せない表情を浮かべる。その理由は言われなくてもとっくに気づいていた。
「京谷、最近は授業も真面目に出てるそうじゃねえか」
「そー!頑張ってるよ!」
「おい○○、お前が一番嬉しそうだな」
…こいつが、△△が俺を怖がらず話しかけてくれるのは、きっとこの人のおかげだ。
この人が指示したとかじゃない。この人に憧れを抱いているから、似ていくんだと思う。それが真似事から始まっているのだとしても結果として同じことをしているのだ。
それに救われる気持ちの裏に、現状を思い知って、心臓を抉られるような感覚さえ込み上げる。
にこやかに話す、岩泉さんと△△。
不思議と居心地は良い。この二人は俺を、俺の感覚を否定しない。…しかし、今この状況は違う。………モヤモヤする。