第1章 狂犬
「岩ちゃーん!」
「あ、徹」
「遅えぞ」
「もー!○っちゃんってば後輩がいる前でくらい呼び捨てやめてよ!」
「ごめんねおっさん」
「"及川"の"お"だけ取るのもやめなさい!!」
そこに、空気を壊すように及川さんが現れた。
離れるタイミングを失っていた俺は「じゃあ…」と一言言ってその場を去る。
「じゃあな、京谷」
「…はい」
「また明日ね!京谷!」
「…ああ」
「狂犬ちゃん!気をつけて帰るんだよ!」
「…」
「俺にだけ返事しないのは何なのさ!!!」
「…」
なんだろう、なぜかムカついた。
俺にもわからない何かを全部わかっているようなこの人に対してこの瞬間は何となく嫌だと感じた。