第3章 吹っ切れる
俺と及川のやりとりを聞いて、彼女はクスクス笑う。コロコロした声が、耳をくすぐるようだ。
自分の恋心に気付いた時に、もう一つ気づいたことがある。
俺は最初から諦めているということ。ただこの人の笑顔が見続けられればいい。こうして笑ってくれる瞬間を少しでも見られればいい。それ以上は何も望んでいない。
だから、誰かに好意を抱いた時、変に緊張したり、謎に意識してしまったりという現象は俺にはあまり縁がないもののように感じている。
「そっちこそ今日はどうしたんすか?平日のこの時間なんて珍しいっすね」
「ん?ああ、そうか。たしかにそうだよね、2人からしたら」
いつもの笑顔。いつもの声。
だけど…。
薄々感じていた。今日はどこか違う。
彼女は照れくさそうに笑いながら、顔にかかった髪の毛を耳にかける。何度か瞬きをして、少し呼吸をおいた。何かあったんだということが、それだけで伝わる。きっと、幸せな何か。
「結婚、するんだ」