第2章 初めて見る顔
けれどいつからか、岩泉さんはその人の恋人に心を奪われたらしい。
「はじめてそれを聞いた時は、やばすぎる何その女って思ったの」
「でもさ、はーくん、人を見る目はあるはずだから、一概に否定もできないなって」
「その時は見たことも会ったこともなくて、どんな人か知らなかったし」
「…」
「でさ」
いつの間にか、俺が握っていたはずの手に力が込められている。
笑いながら、でも泣きながら、そして震えながら、○○の口から、○○の気持ちが溢れ出す。
「その人がどうしようもないほどのブスか、性格が極悪で最低な悪女だったら私はまだ救われたんだろうなーって、最悪なこと考えてる」
直前まで笑うような表情を浮かべていたのに、その言葉を口にした途端、暗く澱んだ顔つきになる。
きっとこれだ。今1番色濃くこいつの気持ちが込められている言葉は。
想い人へ気持ちが届かなかったことではない。真っ直ぐ向けてきた、大切な気持ち。届かなかったその気持ちを今ここで歪めてしまう、醜い自分が見え隠れすることが何よりも悲しいのだ。
「勝てっこないよね、そんなの」
苦しそうに笑う。
でも、俺は痛いほどその気持ちがわかる。
だから、この手を握っているのに。きっと気付いてはもらえない。
何度も思った。その表情が俺に向けられたら、その声で俺を呼んでくれたら、と。祈るように、何度も。何度も。