第2章 初めて見る顔
「なんかね、聞いてたの。憧れの人はいるって。だから、彼女とか考えてないって。」
「あ、でもね、別に私の気持ちは伝えてないし、多分伝わってないと思うんだよ。あの人、あんなんだから」
ぽつり、ぽつりと話し出したかと思えば、○○は泣き腫らした顔を突然上げて、空を仰ぐ。
いつも整えられている前髪も今ばかりはぐちゃぐちゃだ。
「…それでさ、昨日見ちゃったの!その憧れの人!」
また、目に大粒の涙を浮かべる。
空を仰いでいるのは、てっきり気が晴れたのかと思った。けれど、違うらしい。きっと溢れないようにするためだ。そんな彼女の意思とは裏腹に、瞳に溜まった大粒の涙は瞬く間に膨張し、目尻を辿り、赤く腫れた頬を伝って、ぽたりぽたりと溢れていく。
「ほんと、わらっちゃうよねー!」
いつものハキハキした声。
でも、その声の奥は震えていて、本人の気持ちがよく表れている。
強がっていても悲しみが滲み出てきていた。
「男子高校生たぶらかすとかどんなババアだよ!って思ってたらさー!これがめっっっちゃ綺麗な人で!」
「いやいや見た目にお金かけただけとかでしょ!って思ったらすっごい優しい顔して笑うの!」
泣きながら笑うその顔は清々しく見えるかもしれない。眉を下げて口を大きく開けて、笑う。でも、涙がとめどなく溢れてくる。
「はーくん…っ」
その名前を口にする時だけ悲しげに歪むその顔が、痛かった。
聞けば岩泉さんは、とあるバレーボール指導者のもとによく指導を受けに行っていたそうだ。及川さんと2人で幼い時から通っていたらしい。
だからそのことは○○も知っていた。
それにまだ小さい時は幼馴染というのもあり何度かついていったこともあっただとか。