第2章 初めて見る顔
「………ありがとう」
ぐす。ぐす。
鼻を啜る音がしたと思ったら、声を殺して涙を流し始める。垂れた髪の隙間から一粒、また一粒と涙が溢れるのが見えても見えないふりをした。
黙って、隣にいるだけ。俺にできることなんてそれくらいしかわからなかった。
「私ね、はーく………岩泉先輩のこと好きなの」
「………………ああ」
言われなくてもわかっていた。
でも改めて聞かされると、ズキリと胸が痛むようだ。
「でもね、昨日ね、ちゃんと……」
ーーーちゃんと失恋したの。
「…」
多分、俺はこいつの気持ちがわかってしまっていた。俺がお前に向ける目はきっとお前が岩泉さんに向ける目と同じだったから。
他の誰でもない。当然俺でもない。あの人じゃなきゃ、こいつの感情をここまで動かせないから。
少し聞いたことがある。
岩泉さんが叶わぬ恋をしているなんて話を。あの人が。まさか。
俺に限らず皆そう思っていたことだと思う。
どうせ3年の先輩たちがノリで話してて、芸能人とかアイドルとかそういうオチじゃないのかと思っていた。
でもそれは事実とは異なると、今のこいつが教えてくれる。