第25章 憧れの先輩
逢坂くんの用事はすぐ終わり、私たちは一緒に下校する。
「ゆめちゃん、桑門先輩と知り合いだったんだね。しかも…名前で呼んでたね…」
「えっ。あっ…あの…ほら…桑門先輩はさ…芸術家っていうか…人との距離感も独特っていうかさ…あははっ」
なんとなく笑ってごまかす。
「だってさぁ、なんで先輩と知り合ったかっていうとね…
放課後、雨の中校庭に突っ立ってる人がいてね。
余りにも現実感のないたたずまいだから…あれ絶対幽霊だ!と思って見に行ったの。
そしたら先輩で…」
私は先輩と知り合ったいきさつを話す。
「雨に心を奪われそうになっていたんだ。助けてくれてありがとう。
…とか言われてね。
えー変な人ーってちょっと思ったけど…
何かを創る人ってそういう所あるっていうか…
逢坂くんもそうだけど…カッコイイよね」
私は逢坂くんの顔を見てにっこり微笑む。
「え…かっこいい?僕が?そうでもないと思うけど…」
満更でもなさそうに逢坂くんが照れ笑いする。
ふふ…なんか怪しまれていたような気がするけどごまかせそうだ。
「無からの創造というのは…宗教や哲学においても大きなテーマであるし、宇宙の始まりという意味で科学のテーマでもある。正反対とも思えるこれらの学問で…」
逢坂くんが上機嫌で語り出す。
私は半分適当に聞き流す。
「うんうん、そうだよねー。
でも桑門先輩はさぁ、そういう小難しい理屈じゃなくて…感性っていうかぁ…
うーん、うまく言えないけど、あの普通じゃない感!表現者って感じ!」
「……」
「それに桑門先輩のあの母性本能くすぐるふわっとした雰囲気で一人称俺、っていうギャップ!萌え…」
「……」
あ。私しゃべりすぎた。
「えへへ。そういえばわたし、今日は塾の補講があったんだ。帰らなきゃ…」
逢坂くんが私の腕をガッとつかむ。
「20分あれば充分楽しませてあげるよ。僕の家においで」
「いや…あの…えっと…」
言い訳を考えている私の顔を見て彼がにっこりと微笑む。そして言う。
「俺の家に来い」
……。
「やだ、こわい!」
「大丈夫。怖くないから…ね」
彼は優しくそう言いながら、強い力で私の腕を引っ張る。
…調子に乗って失敗した。
fin