第23章 逢坂くんの夢小説
「おはよっ!ひーちゃん」
朝、家を出ると隣の家に住む幼馴染のゆめが僕に声をかける。
彼女は約束している訳でもないのに毎朝、自分の家の玄関の前で僕が出てくるのを待っている。
「おはよう。だけど…せめて紘夢って呼んでもらえないかな?僕たちはもう17才なんだよ?」
子供の時の呼び名で呼んでくる彼女に僕は苦言を呈す。
彼女は子供の頃のままの無邪気で可愛い笑顔でにっこりと笑う。
「大丈夫!学校では紘夢って呼ぶよ!」
「…いや。学校では逢坂くんって呼んでくれないかい?変に誤解されても困るし」
僕がそう言うと、彼女は頬を膨らまし、唇を尖らせて不機嫌な顔をする。
表情がコロコロ変わるのも子供の時から同じだ。
「誤解されたら何か困ることでもあるのっ?」
やれやれ。言葉尻を取ってすぐ突っかかってくるんだから世話が焼ける。
「…別にそういう訳でもないけどさ。面倒だろ?」
「わたしは別に平気だもーん」
そう言って、彼女はまた無邪気な笑顔でにこにこと笑う。
朝の爽やかな空気に溶け込んで、まるで天使のようだ。
…
休み時間に席で本を読んでいると、視線を感じたので顔を上げる。
ゆめが腕組みして前に立っていた。
今度はまた不機嫌な表情だ。
「何か用?」
僕は本に栞を挟み、彼女に尋ねる。
「さっき、よそのクラスの女の子が 逢坂くん のこと廊下からチラチラ見てたよ。知ってる子?」
逢坂くん の所をわざとらしく強調して言う。
「知ってる子も何も…見られていた事に気がつかなかったから…わからないな」
僕は正直に返答する。
「ふぅーん」
ゆめが不機嫌な顔のまま、何か言いたげに頷く。
僕は何もしていないのに、勝手に不機嫌になられるなんて腑に落ちないけれど…まあこういう子だから仕方ない。