第19章 夕暮れの観覧車
「早くしないとてっぺんに着いちゃうよ。ねぇ機嫌なおして?おわびにわたしがキスしてあげる」
私の言葉に彼が振り返る。
黙ったままだけど私の顔を見る。
「じゃあ…目を閉じて」
私の言葉に素直に目を閉じる彼。
目を閉じた彼の長いまつ毛に一瞬見惚れる。
形のいい柔らかそうな唇がほんの少しもの欲しそうに見える。
「くすっ…可愛い」
私は思わずつぶやく。
彼がショックを受けたような表情で目を開ける。
「あ、ごめんごめん。目閉じて」
「もういいっ…」
彼がまた機嫌を損ねてそっぽを向く。
「ごめんってー。観覧車下っちゃうよ。早くぅ」
「もういいってば」
「遠慮しないで。さあさあ」
私は彼の服の裾を引っ張る。
照れちゃってますます可愛い。
彼が急に振り向く。
そして私の腰をガバッと引き寄せる。
「え…」
もう片方の手で私の後頭部をガッと押さえて唇を付ける。
びっくりして半開きのままの私の唇に舌が入ってくる…。
……。
あのマンガ…チュッてキスしただけだけどな…。
彼の舌が私の口の中で動く。
私の身体から力が抜け、息が漏れる。
「んっ…はぁ…」
もう観覧車は下ってる。
隣の箱から見られちゃうよ…。
でも彼の手はギュッと私の身体を押さえたまま。
私もまだ離れたくない。
彼の唇に舌を差し込む。
彼の唇が私の舌をちゅうっと吸う。
「あ…ん…」
私の口から声も漏れる。
こんな所で…。
私は彼の腕をギュッとつかんで声をガマンする。
はぁはぁ…
このままずっとキスしてたいけど…。
観覧車は後どれぐらいなのかな…。
……。
長いような短いような時間が終わり唇がそっと離される。
彼がちょっと勝ち誇ったように微笑む。
けど顔はだいぶ赤い。
でも私もたぶん同じくらいかそれ以上赤いと思う。
降りるまでに治るかな。
私たちは黙ったまま観覧車の残りを過ごした。
fin