第1章 初恋の思い出
少し落ち着いた私に彼が質問する。
「でも誰も彼のこと知らないんだね?」
「そう…私、夢でも見たのかな?
それとも幽霊とか…。
でも私、幽霊でもいいからまた会いたくて…。
この本、雨宮くんが好きだった本なの」
私は逢坂くんに「森の魔法使い」の表紙を見せる。
「なるほど。でも幽霊でもいいから会いたいなんて…ゆめちゃん、その彼のことが好きだったのかな?」
逢坂くんが悪戯っぽく微笑む。
「え…そんな…」
私は自分の頬が熱くなるのを感じる。
「でもそうなのかな。小さい頃はそんなこと意識してなかったけど、優しくて本が好きで…素敵な男の子だったな…。
あ!もちろん今は逢坂くんのことが好きだよ」
慌ててフォローする私。
「ふふ…切ないけれど、素敵な思い出なんだね」
逢坂くんが優しく微笑む。そして続ける。
「ところで今日の放課後、家に寄れるかな?
小テストで問い3を間違えていたよね。
あの辺りは勘違いしやすいから、僕が丁寧に教えてあげるよ」
「うん!ありがとう。ハンカチも…。洗って返した方がいいかな?」
「ううん。そのままもらうね」
彼はにっこり笑ってハンカチを受け取った。