第31章 それは内緒
今日はだいぶ遅くなっちゃった。
「随分、遅くなってしまいましたね。家まで送りましょうか、念のため」
帰る準備をしながら、明神くんが私に提案してくれる。
「ううん。わたし寄りたいとこあるから。ありがとう」
私は図書館に向かう。
…
よかった。やっぱりまだいる逢坂くん。
ん…?
私はそーっと逢坂くんに忍びよる。
…寝てる。
彼は机に突っ伏して眠っていた。
隣に座って、寝顔を眺める。可愛い。
私は、彼が机に置いた手に、そっと手を重ねる。
「ん…?」
彼がゆっくり目を開ける。
「こんなとこで寝たら風邪ひいちゃうよ」
「あれ…寝てた…?」
彼はそうつぶやき、私の顔と、重ねた手を順に見て微笑む。
「ゆめちゃん…なんだかひさしぶりに会えた気がする」
「ふふ…朝、一緒に登校したよ」
私はさっきも見かけたけどね。
逢坂くんは気づかなかったんだよ。
でも、それは内緒。
「そっか。帰りに会えないと思うとなんだか寂しくなっちゃって。会いたかったんだ…」
重ねた手を握り返しながら、彼が話す。
私も。会いたかったんだ。
ふと、彼が顔を上げてキョロキョロする。
「あれ…? 外、もう暗い…。ゆめちゃん、こんな時間まで学校に…?」
「うん。遅くなっちゃった。だから、送ってもらえると嬉しいな」
「もちろん。僕もちょうど一段落したところだったんだ。それで、ホッとして寝てしまったみたいで」
「部活を一生懸命頑張る逢坂くんかっこいいな」
私がそう言うと、彼は照れ笑いする。
今度は可愛い、と思うけど、それは内緒。
「ふふ…。そんなふうに言われると頑張ったかいがあるよ。
ゆめちゃんは? 調子どう?」
「もう、大変でねぇ…」
私たちは会えなかった時間の話をしながら、暗い帰り道を手を繋いで歩いた。
fin