第26章 七夕
天気がいいので屋上にはそこそこ人がいた。
お祭り気分で楽しい雰囲気だ。
「風が吹くと気持ちいいね」
「うん、そうだね」
私たちは屋上の柵にもたれて夜風にあたる。
夏の夜って気持ちいい。
「小学生の時ね、わたしUFO見たことあるよ」
夜空を眺める逢坂くんに私は話す。
「ふ…飛行機か人工衛星だろうね」
ちょっとバカにしたみたいに彼が笑う。
私は反論する。
「そんなことないよ。不規則な光と動きだったもん。逢坂くん見たことあるの?」
「いや、ないけど…」
「でしょ?ないなら違うって言い切れないでしょ?」
「まあ…そうかな。確かに…そうなのかな…」
なんとなく納得したような感じで彼は頷く。
西の夜空にチカチカ点滅する赤い光が見える。
「あ!あそこに何か怪しい光が…ほら、動いてる…」
私がその光の方向に向かって歩き出そうとすると…彼が私の手を急に握った。
「待って」
彼は言った。私は振り返った。
「行かないで。…僕を置いていかないで」
私は何も返事出来ずにしばらく彼の顔を見つめた。
好きって言う言葉だけでは言い表せない。
こんな気持ちが自分の中にあったことを初めて知った。
「…行かないよ」
私はなんとか答える。
他に人がいるのに繋いだ手を離すことがなんとなく出来なかった。
とりあえずそのまま柵に置いた。
彼がそっと手を離した。
「…どこも行かない」
私はもう一度言った。
「うん」
彼は少し照れくさそうに頷いて、柵にもたれて頬杖をついた。
私は夜空を見上げてみた。
星が見える。
彦星とか織姫星って見えるのかな。
確か本で読んだことある。
夏の大三角形の近く…ってどれかな。
私は知らないことばっかりだ。
fin