第115章 君は誰…冨岡義勇【R微】
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僕の朝は、いつも決まった夢で終わる。
誰かが僕に向かって微笑み、優しく名前を呼ぼうとしている。
けれど、その姿は遠くかすみ、あともう少しで顔が見えそうになるところで、唐突に目が覚めてしまう。
そして目覚めた瞬間、胸の奥を激しい締めつけと哀しみが襲い、理由のわからない涙が頬を伝う。
「無一郎様、おはようございます」
視界が明けていくと、いつものように僕の身の回りを世話してくれる美月の姿があった。
僕は大怪我を負ったらしく、それ以前の記憶がすべて抜け落ちている。
この街の裕福な地主の息子として暮らしているものの、見慣れているはずの豪華な屋敷も、通り過ぎる人々の顔も、僕の心には何ひとつ響かない。
自分が誰なのか、何を失ったのかすら分からないまま、まるで人の人生を借りて生きているような居心地の悪さを抱えていた。
「今日は街を歩きましょう。よい気分転換になりますよ」
美月は甲斐甲斐しく着替えを用意しながら、柔らかく微笑む。
その笑顔はいつも温かいが、僕がふと夢の話をしようとすると、彼女の瞳が一瞬だけ影を帯びるのを僕は知っていた。
「…ねえ、美月。僕は本当に、この家の息子なのかな」
僕が問いかけると、美月の手が一瞬止まった。
「何を仰いますの。旦那様も奥様も、無一郎様を心から愛しておいでです。どうか余計なことは考えず、今の穏やかな日々を大切になさってください」
言葉を濁すように優しく背中を押され、僕は美月と共に街へと足を踏み出した。
賑やかな通りを、歩いている時だった団子屋さんが目に入った。
「団子…誰かに、作ってもらって食べたような気がする…。」
美月は、それはゆきとの記憶だとすぐに勘付いた。
「あ、ああ!無一郎様それ私がよく作ってました!」
「君か?今度作ってよ。何か思い出すかもしれないし。」
「も、勿論です!」
二人は、川辺をゆっくりと歩く…美月は、このまま無一郎に、何も思い出してほしくはなかった。
地主の旦那様に、ぜひ無一郎と一緒になってこのまま一緒に暮らして欲しいと言われていたからだ。
美月は、隣を歩く無一郎の手にそっと触れた。
そして思い切って握ってみる…無一郎は、少し驚いたが優しく微笑み返し美月の手を握り返した。
美月は、嬉しさで胸が一杯になった…。