第114章 平和の代償
翌朝早く、義勇は出かけると言い残して屋敷を出た。
向かった先は、不死川の屋敷だった。
「よく来たなァ。入れ」
短く声をかけた不死川は、義勇を中に招き入れる。
座敷に腰を下ろすと、義勇は迷いのない視線で切り出した。
本題は、時透無一郎によく似た人物の目撃情報についてだった。
かつて鬼殺隊に所属していたある「隠」が、故郷の街で見かけたのだという。
「俺は探しに行こうと思っている」
義勇の静かな一言に、不死川は鋭い眼光を向け、眉間に皺を寄せて問い詰めた。
「…てめェ、今の生活がなくなってもいいのかよ。あいつが戻れば、ゆきは時透の元へ帰り、お前の手元から完全にいなくなるんだぞォ?」
ゆきのお腹には新しい命が宿り、義勇は彼女と子を守ると誓ったばかりだった。
もし無一郎が生きていれば、彼女の心も体も間違いなく彼の元へ帰る。
手繰り寄せかけた幸せの手綱を、自ら手放すことに他ならなかった…。
だが、義勇は取り乱すこともなく、不死川へ向けてにっこりと微笑んだ。
「いいんだ」
その笑みは、真っ直ぐだった…。
ただ純粋に、愛するゆきの幸福だけを願う澄み切った決意がみえた。
かつて命を賭して戦った仲間が生きていてほしいという願いと、ゆきに本当の笑顔を取り戻してほしいという想い。
それが義勇にとってのすべてだった。
これまで見たこともない義勇の穏やかな表情を目にして、不死川はぐっと奥歯を噛み締め、余計に胸を痛めた…。
「…チッ、勝手にしやがれェ。だがな、俺も行くぞ」
吐き捨てるような口調でありながら、不死川は義勇の事が気がかりだった。
一人で痛みを背負おうとする義勇を、ただ見送るわけにはいかない。
二人は静かに頷き合い、遠い空の下にあるかもしれない「奇跡」を確かめるため、歩みを進めるのだった。
その頃ー
幸は、食事の用意を終え居間でゆきが来るのを待っていた。
「ゆきさん、遅いな?」
なかなか、居間に現れないゆきの様子を見に、部屋へと向かった。
「ゆきさん。おはようございます。」
「……」
返事がない事を不審に思った幸は、慌てて襖を開いた。
「ゆきさん!失礼しますね!」