第114章 平和の代償
義勇と不死川は、時透の目撃情報があった街へと足を進めていた。
「不死川……ありがとう」
突如として放たれた感謝に、不死川は顔を顰める。
「なんだよ?気持ちわりィな」
「あまり会話をしてこなかったが…俺はお前のことをずっと認めていた。柱として見習う点がたくさんあった」
まっすぐ前を見据えたまま告げる義勇に、不死川は耳の端を赤く染め、気まずそうに顔を背けた。
「…なに言ってんだかァ。てめェはもうちょい話したほうがよかったなァ。何も伝わんねェし、口下手すぎんだよ」
かつて鬼殺の刃を振るっていた二人は、今や隊服を脱ぎ捨て、平穏な町の風景の中に溶け込んでいる。
どこか毒気を抜かれたように言葉を交わし合う不死川のまとう空気も、心なしか柔らかだった。
「…この街だ、冨岡」
二人はゆっくりと、賑わいを見せる街の中へと足を踏み入れた。
その頃ー
屋敷では慌ただしい時を迎えていた。
「沸かしたお湯をどんどん持ってきてください!」
「清潔な布も出来るだけ沢山用意して!」
「あっ!男性の隠の方は部屋に入らないでください!」
ゆきが、とうとう出産の時を迎えていたのだった。
鬼殺隊が解散した後も屋敷に残り、専属のお手伝いとして支えてきた数名の「隠」たちが、汗を拭いながら廊下を疾走する。
部屋の奥からは、苦しげなゆきの呻き声が漏れ聞こえていた。
幸は必死に彼女の手を強く握りしめ、落ち着かせる為に声をかけ続ける。
「大丈夫ですよ、ゆきさん!深呼吸して…吸って、吐いて!」
「…ぁ…っ…あ…っ」
激しい陣痛の合間、必死に耐えるゆきの脳裏には消息を絶ち行方不明となった無一郎の姿が浮かんだ…。
破れそうなほどの痛みに耐えながら、命の誕生を迎える瞬間が刻一刻と近づいていた。
一方義勇達は、街の中をくまなく歩き回っていた。
「くそォ…見つからねェな…冨岡…」
不死川が義勇に話しかけたその時、義勇が足早に路地の方に走った。
不死川も後をすぐに追う。
焦りながら路地を曲がろうとする女の腕を、義勇は掴み声をかける。
「お前!時透の継子の美月だな!」
女は、頭から被っていた布をすっと下ろした。
「…なぜこの街がわかったんですか?」
「そんな事は、どうでもいい。時透は無事なのか!?」
義勇は声を荒げた。