第3章 反逆の刃を空にかざす
「大勢の者が見たんだ!お前が巨人の体内から姿を現す瞬間をな!」
キッツは事の重大さを強調するように言葉を重ねる。
誰かが見たという“目撃”は群衆の正当性となり、
彼の行為を正当化する盾となる。
私はその言葉に鋭く反発するが、
同時に内部で冷静さを失いかけている自分も認めざるをえない。
その後彼は、自分たちが知らない間にエレンのような得体の知れない者をウォール・ローゼ内に入れてしまったと断じ、
たとえエレンが王から与えられた訓練兵の一人であったとしても“リスクの早期排除”が妥当だと執拗に主張する。
「私は間違っていない!」
耳障りなほどの確信。
だが、その確信の奥には恐怖が焙られているだけだった。
「待て、キッツ!
いきなり意識が覚醒した彼にそんな事を言われても混乱する!
彼に説明でもさせてくれ!」
私は仲裁を試みる。
だが時間は短い。
銃口がこちらへ向けられている状況では、説明が受け入れられる余地はほとんどない。
「いつ鎧の巨人が姿を現すか分からない今、こんなことに兵力と時間を割くわけにはいかないのだ!我々は人類存亡の危機の現場にいるのだ!分かったか?!」
キッツの声は締め切られた箱の中で反響し、合図のように兵の緊張は増す。
私はエレンの肩をそっと押し、視線を駐屯兵の誰かに向ける。
そこには保身と恐怖、そして正義と称する暴走が混ざり合っていた。
説明を求める時間は、自分たちの胸が決めるよりもはるかに短く、選択が迫られている。
私は深く息を吸い、言葉を探す。
どれだけの冷静さを保てるかで、これから先の一瞬が決まるのだ。
「彼は見た感じ、ここまでの記憶は無い様子!
何も彼から情報を引き出さないで、殺すのはあまりにも非道だ!」