第3章 反逆の刃を空にかざす
「殺してやる」
突如、低く響く物騒な声。
それは、今アルミンが支えているエレンの声だった。
後ろを振り向くと、覚醒直後の彼の目は不気味に光り、口元には冷たい笑みが浮かんでいる。
その瞬間、アルミンの顔が青ざめる。
「エ…エレン…?」
必死に声を振り絞るアルミン。
その声に、エレンは一瞬ハッとした表情を見せる。
「エレン!!」
ミカサは未だに駐屯兵の方へ体を向けながらも、彼の安否を確認するため、後ろを素早く振り向く。
「エレン!ちゃんと体は動くか?意識は正常か?
知っていることは全部話すんだ!きっと分かってもらえる!」
アルミンの瞳は涙で潤み、声は震えていた。
けれど、エレンは覚醒したばかりで、まだ完全には周囲を把握していない。
アルミンの必死の言葉を前に、眉をひそめて疑問を抱く。
その間にも、駐屯兵たちの間ではどよめきが広がる。
「殺してやるって言ったんだ」
「聞いたぞ。あいつは俺たちを喰らうつもりだ」
恐怖と疑念が入り混じった視線が、エレンに突き刺さる。
一瞬の沈黙の後、空気が張り詰める。
胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚――
それは、誰もが戦慄を覚える、異質な存在の前での恐怖だった。
「アルミン、ミカサ…それに何で…副長が…」
ぼんやりとした声が震えながら漏れる。
エレンの視線はまだ定まらず、瞳の奥には霞が残っている。
私は呼吸を整え、言葉を選びながら問いかける。
どこかおかしい所はないのか、
巨人化していた時の記憶はあるのか、
巨人化した心当たりはあるか
――尋ねるたびに、彼の頭はぐらつき、言葉は氷の蝶のように落ち着かない。
(巨人化していた時の記憶はないのか?)
重い問いを胸の内で反芻する。
だがその時、場を乱すように割り込んできたのはキッツの荒い声だった。