第1章 失恋、そして
「ねえ!言うつもりなかったんだけど言っちゃっていいかな!?ねえ、言っていい?言っていいかな?」
頭の中がすごくぐちゃぐちゃで何が何だかもう分からない。今私は何をしているんだっけ。
目の前の机に目を向けると、一切れだけ残った名前のわからない───というか考えられる頭の状態じゃない───魚の刺身と、空になった大量のジョッキと、大好きなエイヒレの炙りが認識できた。そうだ、私は飲みに来ているんだった。
「言っていいよ。というか私が許可しなくても言っちゃうんでしょ?」
呆れたように笑っているのは大好きな親友の菊(きく)。
「そうなんだよなぁ!もうだめだ!お酒が入ると言わないでおこうと思ってることを絶対言っちゃう!言いたくない!でも言いたい!」
もう考えるより先に口が動いてしまう。そもそも考えられるだけの頭を今は持ち合わせていないのだけれど。
菊とは毎月、月末に予定を合わせて飲みに行こうと約束している。学生時代は大学の学部も学科もゼミも同じだったから毎日のように会っていたが、大学卒業後の進路は別々だった。社会人になって会わなくなって自然消滅・・・には絶対になりたくなかったので、毎月最後の金曜日は予定を空けておくという約束を結んだのだ。結局、就職先は近いし、住んでいる家も近いから月一以上で会っているのだけれど。
「ていうか、なんとなく想像できてるよ。真尋(まひろ)くんでしょ?」
真尋。その名前を聞いて、自然と私の動きが止まる。
「え・・・、どうして?」
真尋。そう、真尋くん。
絶対に何がなんでも菊にだけは言わないでおこうと思っていた私の秘密。菊にはかなわない。きっと私のことなんてお見通しなんだ。菊に隠し事を最後まで隠しきれたことがない。隠しておこうと思ったことが、もうすでに菊にはお見通しであることが半分。もう半分は、お酒が入ったときに我慢できずに私が自白している。今回はその両方。