第9章 嗜血
斎藤が戻ってきたのは、決戦の翌日の朝であった。
霧島は藤堂への心配から一睡もできず、夜通し彼のそばに座っていた。
土方や山南には休めと何度も言われたが、どうしても目を離す気になれなかった。
藤堂の顔色はまだ青白い。
それでも、かすかに胸が上下しているのを確かめるたび、霧島はほっと小さく息を吐いた。
その時、門の方から足音がした。
静かに近づいてくる規則正しい響き。
振り返ると、埃にまみれた羽織姿の斎藤が立っていた。
「……斎藤隊長!」
思わず声をあげて立ち上がると、霧島の胸に張り詰めていたものが一気にほどけた。
斎藤は霧島に一瞥を送り、すぐに部屋の奥へと視線を向ける。
「平助は」
「まだ……眠っています。でも……助かるって、山南さんが」
霧島の声は震えていた。
斎藤は小さく頷き、草履を脱いで部屋に上がり込むと、藤堂のそばに静かに腰を下ろした。
沈黙が落ちる。
遠くで風が障子を揺らし、わずかに光が差し込む。
やがて、彼は低く呟いた。
「そうか……間に合ったか」
その一言に、霧島は胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。
張り詰めていた緊張が解け、思わず膝に力が抜けそうになる。
斎藤はちらと霧島に視線を向ける。
「あんた、寝ていないのか?」
「えぇ、藤堂さんが心配で……どうしても眠れなくて」
霧島は疲れ切った笑みを浮かべる。
斎藤は短く息を吐いた。
「池田屋から間もないというのに、無理せず休めと言っているだろう」
「でも、もし何かあったら……」
霧島の言葉は途中で途切れた。
斎藤の眼差しが、ほんのわずかにやわらいだように見えたからだ。
「大丈夫だ。山南さんがそう言ったのだろう?」
「……はい」
霧島は深く息をつき、初めて藤堂のそばから離れる決心をした。
斎藤がここにいるのなら、もう少しだけ自分を休ませてもいい——。
そう思えたのだった。