第1章 剣士
霧島は水に濡れた手を握りしめ、少し間を置いてから、静かに答えた。
「……守るべき者を、守れなかったからです」
声は低く、しかし揺らがなかった。
両親を庇えなかった日の記憶が、胸の奥で痛みを伴いながら蘇る。
「幼い頃、不逞浪士に両親を殺されました。長州訛りの男達でした。金銭を奪われ、母は凌辱され、最後には家に火を放たれて……」
斎藤は静かに霧島の話を聞き、表情を変えずにその目を見つめていた。
「私は、父が庇いながら守ってくれて。逃がしてくれて、命懸けで何とか逃げ延びました。私は奴らに復讐したい」
言葉を聞き終えた斎藤は、沈黙のまま霧島を見つめ続ける。
やがて静かに口を開いた。
「……そうか。ならば、あんたの覚悟はわかった」
その声には、厳しさと同時に、わずかな承認の色が含まれていた。
斎藤は少し間を置き、視線を霧島の剣に移す。
「覚悟があるなら、次は力だけでなく、持久力も鍛える段階だ」
言葉は短いが、その意味は重く、霧島の胸に深く刻まれる。
霧島は再び水面に映る自分の顔を見つめ、拳を握り直した。
守れなかった日々を、今度こそ――。
冷たい井戸の水に触れながら、その思いが体の奥に静かに染み渡っていった。
霧島はゆっくりと顔を上げ、深く息を吸い込む。
決意の炎が、体の隅々まで行き渡るのを感じた。
井戸での水浴びを終え、霧島は軽く体を拭き、服を整えた。
斎藤が静かに声をかける。
「霧島、行くぞ。幹部たちに紹介する」
霧島は深く頷き、斎藤の後に続いた。