第4章 剣技
原田と藤堂が戻ってきたとき、縁側は静かさで満ちていた。
原田は、竹串に刺さった団子を皿に器用に並べる。
藤堂は片手に漬物の壺を抱え、もう一方の手には箸が握られていた。
「おう。熱いうちに喰らえ」
原田がざっくばらんに言うと、永倉が両手を差し出して笑った。
藤堂は漬物の蓋を開け、香ばしい匂いがふわりと立ち上る。
雪村はさっと立ち上がり、台所へと駆けて行く。
小柄な背中が向こうに消え、すぐに茶碗とを抱えて戻ってきた。
湯気に混じる茶の香りが縁側をやわらかく満たす。
彼女は慎ましげに湯を注ぎ、皆のために湯呑みを差し出した。
「お疲れさまでした。どうぞ、あたたかいうちに」
雪村の声は疲れを帯びているが、瞳は穏やかで、みんなは自然とほほえむ。
霧島は木刀を縁に立て、両手で湯呑を受け取る。
温かさが掌に伝わるたび、稽古の疲れがすっと溶けていくようだ。
雪村が差し出す湯気の向こうで、原田が串を霧島の前に押し出す。
「遠慮すんな、霧島。俺の奢りだ」
「おいおい、団子ごときで偉ぶるなよ」
永倉が笑う。
霧島は軽く頭を下げ、団子を一つ口に運ぶ。
甘辛い味噌の香りがふわりと広がり、思わず目を細めた。
藤堂は雪村の隣に座り、楽しげに漬物を皿に分ける。
永倉は茶をすするたびに大げさに息を吐き、白い湯気を弄る。
皆の間には、稽古場では見せない柔らかな時間が流れている。
雪村はそっと霧島の方を向き、眉を少し寄せて笑った。
「霧島さん、今日の動き、格好良かったです。けれど無理はしないでくださいね」
霧島は湯呑みを掲げて小さく笑う。
「はい、気をつけます」
そのやり取りを見ていた原田が言葉を投げる。
「よし、今夜はこれで英気を養って、明日はもっと叩き上げるぞ」
笑い声が上がり、団子の串が空になる。
夕風が杉の葉を揺らし、縁側に座る顔ぶれをほんのりと染めた。
雪村は湯呑を片付けながら、ふと霧島の目と合い、短く視線を交わした。
その瞬間、二人の間にあった緊張がほんの少しだけ溶け、言葉にしなくとも互いを認め合う空気が通う。
外では町の喧騒がいつものように続いているが、ここには今、もう一つの「日常」があった。
戦いや稽古の厳しさの裏にある、小さな親密さと安らぎ。
霧島は団子の残りを見つめ、胸の片隅に芽生えた温かさを確かめるように、ゆっくりと茶を飲んだ。
