• テキストサイズ

三番隊の剣士【薄桜鬼】

第4章 剣技


稽古が終わり、霧島はまだわずかに筋肉の張る腕をほぐしながら、斎藤らと共に洛中の巡察へと向かった。

朝陽を受け、町は少しずつ人の気配を取り戻してゆく。

魚の匂いを漂わせる桶を担ぐ行商、暖簾を掲げ始める茶屋、路地の隅では子供が竹馬をついてはしゃいでいた。

斎藤は無言のまま前を歩き、時折、周囲へ鋭い視線を送る。

霧島は斎藤の一歩後ろを歩きながら、胸の奥で自らに言い聞かせた。

(ここはもう俺の戦場だ。剣を握るだけではなく、この町を守るのも俺たちの務め)

小路に差しかかると、煤けた格子戸の前に怪しげな影がちらりと動く。

斎藤が立ち止まり、低い声で告げた。

「霧島、あの裏手を見てこい」

胸の鼓動が速くなる。稽古場とは違う、肌を刺すような緊張が走る。

霧島は短く返事をし、草履の音を忍ばせながら影の差す路地へと足を踏み入れた。

朝の陽はほとんど届かず、軒先から垂れ下がる朝露がぽたり、ぽたりと石畳を濡らしている。

胸の奥で小さく息を整えながら、目を凝らした。

(……人影が動いたのは確かだ)

細い路地の先には、古びた木箱や酒樽が雑然と積み上げられ、通り抜けるには身をかがめねばならない。

足音を殺して歩を進めると、かすかな衣擦れの音が耳に届く。

「誰だ――」

霧島が声をかけると、箱の陰から少年が飛び出した。

十二、三歳ほど、煤で汚れた手拭いを頭に巻き、目を見開いている。

驚きで硬直した少年を前に、霧島は瞬時に刀を向けた。

「待て、逃げるな。ここで何をしている」

少年は怯えたように後ずさりし、背後の桶に膝をぶつけて鈍い音を立てた。

その音に気づいたのか、表通りから斎藤が現れる。

鋭い眼光を向けながらも、声は落ち着いていた。

「ただの子どもか。……霧島、刀をしまえ」

霧島は頷き、刀を腰へ戻した。
斎藤は少年の前に膝をつき、低く問いかける。

「盗みを働く気だったのか。それとも、誰かに命じられたか」

少年は目を泳がせながらも、やがて小さく首を振る。

「……母ちゃんが病気で、米がなくて。裏手なら、誰も見てないと思って……」

沈黙が落ちる。

霧島は少年の震える肩を見つめ、胸の奥に鈍い痛みを覚えた。
/ 121ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp