第9章 嗜血
それからしばらく、三人は静かに言葉を交わした。
藤堂は時折眉をひそめ、肩を小さく震わせながらも、慎重に言葉を選ぶように話す。霧島は耳を澄ませ、声の端に潜む迷いや後悔を感じ取りながら、静かに相槌を打った。
やがて藤堂は深く息を吐き、布団に身を沈める。
「……少し休む。悪い、心配かけて」
声はかすかに震えていたが、疲労と眠気に押されるように、すぐに瞼を閉じる。布団の中で小さく丸まるその姿に、霧島は目を伏せたままそっと息をついた。
斎藤は布団の端で藤堂を見守った後、静かに霧島に視線を向ける。
「霧島、部屋を出るぞ」
霧島はゆっくりとうなずき、静かに頭を下げる。
畳を踏みながら廊下に出ると、
「……怪我を負わせてすまなかった」
低く落ち着いた声だが、その奥には自責と後悔が滲んでいる。
「怖い思いをさせたな」
斎藤はそう言うと、霧島の包帯に覆われた腕に手を伸ばした。
指先は優しく、傷口を確かめるように触れた。
霧島は目を伏せ、静かに答えた。
「いえ、さっきも言いましたが、誰のせいでもないです」
斎藤は霧島をじっと見つめる。視線は鋭くもあり、温かさを帯びていた。
「……俺は、あんたが傷つくのを見ると、落ち着かない」
霧島の胸が大きく揺れる。叱責でも命令でもない――ただ、心からの想いが伝わってくる。霧島は小さく息を呑み、視線を上げた。
「俺はあんたに、特別な情を抱いているのだろう」
斎藤の口調は遠回しで、告白というより確認のようでもあった。
霧島は一瞬迷う。
心臓が早鐘のように打つ。
やがて、わずかに顔を上げ、静かに答えた。
「私も、隊長と同じ気持ちです。隊長が私を大切に思ってくださるように、私も隊長を――大切に思っています」
斎藤はその言葉に一瞬言葉を失い、深く息を吐く。
「……そうか」
しばし二人は言葉を交わさず、互いの視線だけで意思を確認し合う。
廊下の光が二人の影を長く引き、距離を縮めることを許さず、しかしその間に温かさが満ちていく。
斎藤はわずかに微笑む。
「この先、どんなことがあっても、俺はあんたのそばにいる」
霧島は胸の奥で熱いものを感じ、目を潤ませながらも静かにうなずく。
「はい、私も……必ず、隊長のそばにいます」
廊下に差し込む光が、二人を柔らかく包み込む。
言葉少なでも、互いの想いは確かに通じていた。
