第1章 揺れる心と優しい手当て1
ダメだ、俺。青さんは、俺の恩人だ。それなのに、こんな状況で、こんな風に感じてしまうなんて……。
心の奥底から湧き上がる、熱くて、どうしようもない感情。これ以上は、きっと、取り返しがつかなくなる。
「青さん、あの、わりぃ! やっぱ、これ、家入先生に診てもらうわ!」
俺は半ば強引に青さんの手を振り払って、立ち上がった。青さんは、突然の俺の行動に驚いたように目を丸くしている。
「えっ、でも、もう少しで終わるのに……」
青さんの声が、みるみるうちに小さくなる。その表情には、はっきりと「寂しさ」と「戸惑い」が見て取れた。しまった、こんな言い方じゃ、青さんを傷つけるだけだ。でも、今の俺には、これしかできなかった。
「悪ぃ、青さん。どうしても、家入先生に診てもらいてぇんだ。じゃあな!」
俺はそれだけ言い残して、青さんの制止の声も聞かずに駆け出した。走りながら、背中に刺さるような青さんの視線を感じて、胸が締め付けられる。最低だ、俺。でも、そうするしかなかったんだ。
誤解と、その先に
結局、俺は家入先生のところで手当を受けた。傷はすぐに塞がったけど、心の中はモヤモヤしたままだった。青さんを傷つけてしまった後悔と、あの時感じた熱い感情のせいで、どうにも落ち着かない。
数日後、任務で高専に戻ると、ちょうど廊下で青さんとすれ違った。青さんは俺を見るなり、サッと視線を逸らし、足早に立ち去ろうとする。
「青さん!」
思わず引き留めてしまった。青さんは小さく肩を震わせ、ゆっくりと振り返った。その顔は、やはりどこか寂しげで、俺は胸が痛くなった。
「この前は、悪かった! 急に飛び出しちまって、青さんを傷つけるつもりじゃなかったんだ」
俺が頭を下げると、青さんは困ったように眉を下げた。
「ううん、大丈夫。でも、私、何か気に障ることしちゃったかなって……」
その言葉に、俺はハッとした。青さんは、俺が自分を嫌って避けたと誤解しているのかもしれない。そうか、それなら無理もない。俺の行動は、どう考えても失礼だった。