第34章 『役者×浮気心』土方歳三編
「……なぁ、ももか」
「はい……」
「おまえが他の男に見られて、口説かれて……それで、ほんの一瞬でも心が揺らいだと思ったら――」
「……わたし、揺らいでなんか……」
「わかってる。でも俺がそう思った時点で、もう、だめだ」
「……え……」
「おまえの肌も、声も、目も、口も……全部、この腕の中で確かめなきゃ、気がすまねぇ」
その言葉とともに太い腕が腰に回され、唇が首筋をなぞる。
どこにも逃げ場なんてない。
腕の中に閉じ込められるようにして抱かれて――
「ももか……今夜は絶対、離さねぇ。何度だって確かめる。誰のものか、どこにも行かせねぇって、身体に教え込んでやる」
「はい……わたし、どこにも行きません……土方さんのところに、ずっといます……」
その言葉に、ぐっと抱きしめる力が強くなる。
「……可愛すぎる。どうしてくれんだ……」
耳元で囁かれたその声は、熱そのものだった。
やさしくて、でも重くて、深い――まるで訴えるような口付けが何度も落とされる。
(……土方さん……こんなに、わたしを……)
その夜。
土方さんは本当に、一晩中わたしを抱きしめていた。
何度も、何度も。
「好きだ」「おまえだけだ」と、繰り返して。
わたしをすっぽりと抱き込む腕は一度たりとも離れず、夜が明ける頃には彼の熱ですっかり火照っていた。
「朝が来ても、まだ足りねぇな……」
「ふふ……どこまで欲張りなんですか、土方さん……」
「……おまえに関しては、底なしなんだよ」
いつもより不器用で、でも誰よりもまっすぐで熱い、そんな土方さんに。
わたしは、もっともっと恋をしてしまった。
fin.